CES(Customer Effort Score、顧客努力指標)は、NPS・CSATと並ぶ第3の顧客指標として近年注目を集めています。Harvard Business Review が「ロイヤルティを高めるのは感動より、努力を減らすこと」という研究を発表して以来、特にカスタマーサポートやSaaS領域で重視されるようになりました。
ただ、CESには他の指標と決定的に違う性質があります。CESは「感情」ではなく「プロセス」を測る指標 だということです。この性質を理解しないまま、満足度と同じ感覚で使うと、CESは持ち味を発揮できません。本記事は基本を押さえたうえで、CESを「行動ログと突き合わせて読む」という現場目線の使い方まで踏み込みます。
CESとは何か
CESは、顧客が目的を達成するためにどれだけの手間(努力)を要したか を測る指標です。代表的な設問形式は2つあります。
旧型(CES 1.0)
「あなたの問題を解決するために、当社はどれだけの努力を要求しましたか?」 (1〜5段階:非常に多くの努力を要した — ほとんど努力を要しなかった)
新型(CES 2.0)
「『当社のおかげで、私の用件はかんたんに済んだ』 — この主張にどれだけ同意しますか?」 (1〜7段階:強く反対 — 強く同意)
現在は新型(CES 2.0)が主流です。肯定文への同意度を聞く形式のほうが、文化的バイアスが少なく回答が安定します。
なぜCESが重要なのか
Harvard Business Review の調査では、
- 顧客の96%が「努力が大きい体験」を経験すると不忠誠(解約・他社移行)になる傾向がある
- 「期待を超える体験」より「努力を減らすこと」のほうがロイヤルティ向上に効く
という結論が出ています。つまり、
「すごい!」と思わせるより、「面倒だった」と思わせないほうが解約防止に直結する
という発想です。
「努力削減>感動」は万能ではない — CESが向く接点・向かない接点
ここで一つ、多くのCES解説が省略する重要な但し書きを置きます。
HBRのあの有名な結論は、「カスタマーサポート」という文脈で得られたもの です。「問題を抱えた顧客が、それを解決しに来る」場面では、努力を減らすことが正義です。誰もサポート対応に「感動」を求めていません。
しかし、すべての顧客接点が問題解決型ではありません。体験そのものが価値である接点では、CESはむしろ的外れな指標になります。
| CESが向く接点 | CESが向かない接点 |
|---|---|
| サポート問い合わせ | 高級サービスの接客体験 |
| 解約・返品手続き | エンタメ・趣味性の高い商品の利用 |
| オンボーディング設定 | ブランド体験・店舗体験 |
| 申込・決済フロー | 「探す楽しさ」が価値の探索体験 |
「向かない」側の接点で「かんたんに済みましたか?」と聞いても、顧客は「いや、そういうことを楽しみに来ているのですが…」となります。CESは 「手間を減らすべき接点」専用の指標 だと割り切ってください。手間そのものが楽しい接点には、CSATやNPSを使います。
CESの算出方法
7段階の場合、回答の 平均値 をスコアとします(NPSのような特殊計算は不要)。例:
- 回答1: 6 / 回答2: 5 / 回答3: 7 / 回答4: 4 / 回答5: 6
- 平均 = 5.6 → CES = 5.6/7
業界ベンチマーク(7段階):
- 5.0 未満: 改善が必要
- 5.0〜6.0: 標準
- 6.0 超: 優秀
CESを使うべきタイミング
CESは 接点直後 に聞くのが鉄則です。
| 接点 | 配信タイミング |
|---|---|
| サポート対応 | 解決直後 |
| オンボーディング | セットアップ完了直後 |
| 解約手続き | 解約完了画面 |
| 返品・返金 | プロセス完了直後 |
体験から時間が空くほど「努力の記憶」が薄れ、評価が中庸に寄ります。
CES vs NPS vs CSAT
| 観点 | CES | NPS | CSAT |
|---|---|---|---|
| 測るもの | 接点での努力量 | 全体的な推奨意向 | 体験への満足度 |
| 性質 | プロセス指標 | 関係性指標 | 感情指標 |
| 解約予測力 | 強い | 中 | 弱め |
| 経営指標 | △(接点限定) | ◎ | ○ |
| 改善アクションの直結度 | 高い | 中 | 高い |
CESは 解約予測 と 接点改善 に最も強く、NPSやCSATを補完する位置付けです。
CESスコア単体は嘘をつく — 行動ログと突き合わせて読む
ここが本記事の核心です。CESは「プロセス指標」だと述べました。だからこそ、CESスコア単体を眺めるのは、ほとんど無意味 です。
理由はシンプルで、CESは主観だからです。まったく同じ「3回やりとりして30分かかったサポート」でも、期待値の低い顧客は「ラクだった(高スコア)」と答え、期待値の高い顧客は「手間だった(低スコア)」と答えます。スコアだけ見ても、それが「プロセスが良かった」のか「顧客の期待値が低かった」のか区別できません。
そこで、CESの本当の使い方は——CESスコア(主観)と、客観的な行動ログを突き合わせる ことです。突き合わせるログの例:
- 解決までの所要時間
- やりとりの回数
- 担当者のたらい回し回数
- 同じ用件での再問い合わせ率
この2軸でマトリクスを作ると、CESスコアが一気に「読める」ようになります。
| ログが良い(手間が少ない) | ログが悪い(手間が多い) | |
|---|---|---|
| CESスコアが高い | ✅ 健全。この接点は維持 | ⚠️ 危険信号。顧客が低品質に慣らされている。期待値が低いだけ |
| CESスコアが低い | ⚠️ 期待値が高すぎ/説明不足。コミュニケーションを直す | 🔴 改善対象が明確。プロセスそのものを直す |
特に注目すべきは右上の 「スコア高×ログ悪」 です。CESスコアだけ見ていたら「問題なし」と判断してしまう接点ですが、実際には「顧客がもう諦めて、低い品質を当たり前だと思っている」状態かもしれません。これは将来の解約予備軍です。スコアという主観だけを追っていると、この危険信号を完全に見逃します。
CESを使うときの落とし穴
接点を選ばないと意味が薄い
CESは特定の体験について聞く指標です。「サービス全体の努力量」のような曖昧な質問だと、回答者の頭に浮かぶ場面がバラバラで、ノイズの大きいデータになります。
自由記述とセットで運用
低スコア(1〜3)を付けた回答者には、
「もっとかんたんにするために、何を変えるべきだと思いますか?」
という自由記述を続けて聞くと、改善ヒントが豊富に得られます。
高スコアでも解約する顧客はいる
CESスコアが高くても、価格やニーズミスマッチで解約することはあります。CES単独で全てを語らず、他指標と組み合わせて判断してください。
具体的な改善アクション例
CES が低い接点(かつログも悪い接点)が見つかったら、以下が定石です。
- 問い合わせ前のFAQ拡充: 自己解決率を上げる
- チャットボットの設置: 一次対応を自動化
- 手続きステップの削減: フォーム入力項目を減らす
- 進捗の可視化: 「あと○ステップ」を表示
- 担当者のたらい回し防止: 一次受付者が最後まで対応
これらは全て「顧客の努力を減らす」方向の施策です。
まとめ
CESの活用ポイント:
- CESは 「手間を減らすべき接点」専用。体験そのものが価値の接点には使わない
- 接点直後 に、新型(同意度方式) で聞く
- 自由記述とセット で運用する
- スコア単体で判断せず、行動ログと突き合わせて4象限で読む
特に「スコア高×ログ悪」の危険信号を見つけられることが、CESを正しく使う最大の価値です。
レポアンの AI チャットに「CES形式で問い合わせ後アンケートを作って」と伝えれば、同意度スケールを使った設問構成が自動生成されます。サポート問い合わせ後 のテンプレートをベースに改造するのもスムーズです。
CSAT・NPS との併用パターンは NPS vs CSAT で詳しく解説しています。回答後の AI 分析機能(詳細)で「努力を増やしている要因」を自由記述から自動抽出できます。
関連記事
- 「努力」の裏にある本音を発見:顧客インサイトの発見方法
- AI で取れない「声なき多数派」:AIで全部分析できる時代に、なぜアンケートを取るのか
- CESを活用した改善サイクル:アンケートでPDCAを回す